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こいずみやくものかていせいかつ

小泉八雲の家庭生活

萩原 朔太郎

室生犀星と佐藤春夫の二詩友を偲びつつ

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,379 字 · 33 页

青空文庫

私あの家、面白いの家と思いました』と幾度も繰返して口惜しがった。

ヘルンについての一不思議は、あれほど広く多方面の文献に亘って、日本人以上に日本のことを知っていながら、日本語をほとんど知らなかったということである。彼の知ってた日本文字は、片仮名のイロハと僅少の漢字にすぎず、彼の語る日本語は、焼津からの手紙にある通り、不思議な文法によって独創された、子供の片言のような日本語である。後に買った大久保の家に、書斎を新しく建て増しする時、一切の設計や事務を妻に一任して、自分は全く無頓着で居たが、それでも妻が時々相談を持ちかけると、『もう、あの家よろしいの時、あなた言いましょう。今日パパさん、大久保にお出で下され。私この家に、朝さよならします。と大学に参る。よろしいの時、大久保に参ります。あの新しい家に。ただこれだけです』と煩わしそうに言った。こうしたヘルンの日本語は、ヘルンの家族以外の人々には、容易に意味がわからなかった。家族の人々は、それを『ヘルンさん言葉』と呼んで面白がった。そうした奇妙な日本語は、時にしばしば、家庭内のユーモラスな流行語となったであろう。