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こいずみやくものかていせいかつ
小泉八雲の家庭生活
萩原 朔太郎
室生犀星と佐藤春夫の二詩友を偲びつつ
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,379 字 · 33 页
あったろう。彼の妻(小泉節子夫人)が、その旧日本的な美徳によって、いかに貞淑に良人に仕え、いかによく彼を愛し理解していたかということは、後年彼が多少日本に幻滅して、在外の友人に日本の悪評を書いた時さえ、日本の女性に対してだけは、一貫して絶讃の言葉を惜まなかったことによっても、またその多くの『怪談』に出て来る日本の女性が、ちょうど彼の妻を聯想させるごとき貞婦であり、旧日本的なる婦道の美徳や、そうした女に特有の淑やかさいじらしさ、愛らしさを完備した女性であることによっても知られるのである。筆者がかつて評論した、有名なヘルンのエッセイ『ある女の日記』も、校本に拠るところがあるとは言いながら、実はその愛妻節子夫人を、半面のモデルにしたものと言われている。幼にして母を失い、他人の家に養われ、貧困の中に育ち、飢餓と冷遇を忍びながら、職を求めて漂泊し、人の世の惨たる辛苦を嘗めつくして、しかも常に魂の充たされない孤独に寂しんでいたヘルンにとって、日本はついにそのハイマートでなかったにしろ、すくなくともその妻に抱擁された家庭だけは、彼の最後に祝福された、唯一の楽しい安住の故郷であった。