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こいずみやくものかていせいかつ
小泉八雲の家庭生活
萩原 朔太郎
室生犀星と佐藤春夫の二詩友を偲びつつ
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,379 字 · 33 页
その時ヘルンは、黙って彼女を書架の前に導き、彼の尨大な著作全集を見せて言った。この沢山の自分の本は、一体どうして書けたと思うか。皆妻のお前のお蔭で、お前の話を聞いて書いたのである。『あなた学問ある時、私この本書けません。あなた学問ない時、私書けました』と言った。実際もし彼の妻がインテリ女性であったとすれば、日本の古い伝説や怪談やを、女の素直な心で率直に実感することはできなかったろう。『無学で貞淑な女は天才以上である』とニイチェが言っているが、ヘルンの妻のごとき女性は、正にその意味での『天才以上』であったのである。
こうした貞淑の妻にかしずかれて、日本での晩年を平和に暮した詩人ヘルンは、さすがに自らその寂しい幸福を自覚していた。彼はその故国の友人に手紙を書き、日本での生活実況を次のように詳述している。曰く、学校の講義が終ると、車夫が人力車を持って迎えに来ている。家の玄関へつくと、車夫がとても威勢の好い大きな声で、『オ帰リイ』と叫ぶ。すると家中の者がぞろぞろ出て来る。妻や女中たちが、玄関の畳に列び坐って、『お帰り遊ばせ』とお辞儀をする。それから座敷へ上ると、妻が洋服をぬがせて和服に着かえさせてくれる。