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こいずみやくものかていせいかつ

小泉八雲の家庭生活

萩原 朔太郎

室生犀星と佐藤春夫の二詩友を偲びつつ

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,379 字 · 33 页

青空文庫

悲しむ、私よろこばないです。あなた、子供とカルタして遊んで下さい。いかに私それを悦ぶ。私死にましたの知らせ、要りません。もし人が尋ねましたならば、ハア、あれは先頃なくなりました。それでよいです』と、そして何か困難な事件が起ったならば、法学士の梅氏に相談しろと言った。『そのような哀れな話、して下さるな。そのようなこと、決してないのです』と夫人が言うに対しても、『心からの話、真面目のことです』と言い、『仕方ない!』と死を覚悟していた。しかもなお残された仕事のことを考え、『人生は短かすぎる』と幾度か嘆息した。

桜の花が返り咲きをした日から、数日を経てまもなくヘルンは死んでしまった。死ぬ前の日に、彼は不思議な夢を見たと妻に話した。それは日本でもない、支那でもない、大層遠い遠い見知らぬ国へ、長い旅をした夢であった。そして今ここに居る自分が本当か、旅をした自分が本当かと夫人に問い、『ああ夢の世の中』、と呟いて寂しげに嘆息した。わが漂泊の詩人芭蕉は『旅に病んで夢は枯野をかけめぐる』といって死んだ。夢見ることによって生きた詩人等は、また夢見ることの中で死ぬのであった。