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こいわいのいっか

小祝の一家

宮本 百合子

「文芸」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页

青空文庫

乙女が今度通いはじめた郊外のけちなカフェーから早番でかえって来ると、祖母ちゃんはミツ子の足をだらりとたらしておんぶったままその前に坐って、

「――もう赤い布っこも、いらねようになった……」

静かにそう云い、お骨壺から目をはなさず、

「ハあ……」

と溜息をついた。勇がかえって来て突立ったまま、見馴れなそうに、ばつ悪そうにアヤの骨壺を見た。それから、ピョコンと頭を下げて礼をした。

泣く者は誰もなかった。ミツ子は両肩の間に圧し込んだようなおかっぱを乙女の方にふり向けて幾度も、

「お! お!」

食いものでないのが残念という風に骨壺をよごれた指で指さした。

アヤの骨をどこへ埋めるにも、どの寺へ預けるにも、今や祖父ちゃん祖母ちゃんには故郷というものがなかった。――

居据ったような上京当時からの貞之助の態度が、次第に失われはじめた。乙女はそれを、祖父ちゃんの坐り工合からさえ何となく感じた。

新しく借金がふえてから、お石は三日にあげずやって来た。勉はこの頃家へよりつかないらしいがどうしているかだの、乙女の出ているカフエはどこかだの詮索するときいて、乙女は、

「祖母ちゃん、気いつけな」