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ろうじゅうのめがね

小笠原壱岐守

佐々木 味津三

佐々木味津三『小笠原壱岐守』。同一底本的分册已合并为一书。收入:老中の眼鏡、十万石の怪談、流行暗殺節、山県有朋の靴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,249 字 · 115 页

青空文庫

「さぞかし御疲れに厶りましょう。御無事の御帰館、何よりに御座ります。今宵の容子は?」

「ききたいか」

「殿の御心労は手前の心労、ききとうのうて何と致しましょうぞ。どのような模様で厶ります」

「言いようはない。火の消えたような寂れ方じゃ」

「ではやはり――」

「そうぞ。もはや迷うてはおられまい。断乎として決断を急ぐばかりじゃ」

「…………」

「不服か。黙っているのは不服じゃと申すか」

「いえ不服では厶りませぬ。殿が御深慮を持ちまして、それ以外に途はないと仰せられますならば、いかような御決断遊ばしましょうと、格之進何の不服も厶りませぬが――」

「不服はないがどうしたと申すのじゃ」

「手前愚考致しまするに屋台店の夜毎に寂れますのは、必ずしも町民共の懐中衰微の徴しとばかりは思われませぬ。一つは志士召捕り、浪土取締りなぞと血腥さい殺傷沙汰がつづきますゆえ、それを脅えての事かとも思われますので厶ります」

「一理ある。だがそちも常人よ喃。今の言葉は誰しも申すことじゃ。予は左様に思いとうない。も少し世の底の流れを観たいのじゃ。よしや殺傷沙汰が頻発致そうと、町民共の懐中が豊ならば自と活気が漲る筈じゃ。