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しょうせつ えんちょう

小説 圓朝

正岡 容

正岡容『小説 圓朝』。同一底本的分册已合并为一书。收入:小説 円朝、我が円朝研究、小説 円朝 あとがき。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,270 字 · 325 页

青空文庫

で、お露お米の怪異場面に関しては再び綺堂先生の『寄席と芝居と』の一節を抄させて頂いてよろしくあなた方に想像して頂こう。

恰もその夜は初秋の雨が昼間から降りつづいて怪談を聴くには全くお眺え向きの宵であった。

「お前、怪談を聴きに行くのかえ」と、母は赫すように言った。

「なに、牡丹燈籠なんか怖くありませんよ」速記の活版本で多寡をくくっていた私は、平気で威張って出て行った。ところが、いけない。圓朝がいよいよ高座にあらわれて、燭台の前でその怪談を話し始めると、私はだんだんに一種の妖気を感じてきた。満場の聴衆はみな息を嚥んで聴きすましている。伴蔵とその女房の対話が進行するに随って、私の頸のあたりは何だか冷たくなってきた。周囲に大勢の聴衆がぎっしりと詰めかけているにも拘らず、私はこの話の舞台となっている根津のあたりの暗い小さな古家のなかに坐って、自分ひとりで怪談を聴かされているように思われて、ときどきに左右に見返った。今日と違って、その頃の寄席はランプの灯が暗い。高座の蝋燭の火も薄暗い。外には雨の音が聞こえる。それ等のことも怪談気分を作るべく恰好の条件となっていたには相違ないが、いずれにしても私がこの怪談におびやかされたのは事実で、席の刎ねたのは十時頃、雨はまだ降りしきっている。