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おぜぬまのしき

尾瀬沼の四季

平野 長蔵

「山岳 第一九年第一号」1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,629 字 · 6 页

青空文庫

春の尾瀬沼は、朝日の光に雪は赤金光色と輝き、深山の雪もしめりがちとなり気温三拾度に昇れば雨の模様となり、白霧数里、針葉樹闊葉樹白樺に樹氷を結びし景色は、白銀の花というてよかろうか、山人らの如き自然の愛好者は、針葉樹及闊葉樹の梢の少部分が直立し、一円に霧の流れる朝の模様は、何と命名したならば適当であろうか。狂気の如く一家族を雪庭に呼集め、その偉観壮大を絶叫するの日が往々にある。雪すべり雪のかけ足等何といおうか。霞棚びきうららかに、小鳥が鳴く、ふくろも鳴く。我を忘れて駆り出す雪舟に乗り、何れの山に登るにも氷雪にて自由自在、さながら天国の遊戯ともいい得べく、春の一里は夏の二里より歩行にやすし。鶯の声を聞くときの如きは、深山の春の快感を誰にも味わせたきものであると思わぬことはない。三月になれば途中雪なだれの恐はない。

五月下旬より草花時季となる。大江川端、尾瀬沼の周囲、水バショウの白花満地となる、雪国は雪色の花より咲き初めるの感じがする。綿スゲ雪を突抜いて咲く。黄色花、紫花、赤花、一々草花の名称は略す。尾瀬沼より沼山峠下まで延長拾五丁、甘草の花と化し、その内セキショウ、アヤメの満開は、山人の如き拙き筆にては書き尽すことはならぬ。