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やまのてのこ

山の手の子

水上 滝太郎

「三田文学」1911(明治44)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,551 字 · 31 页

青空文庫

烈しかっただけに逝く夏は肉体の疲れからもかえって身に沁みて惜しまれる。木の葉も凋落する寂寥の秋が迫るにつれて癒しがたき傷手に冷え冷えと風の沁むように何ともわからないながらも、幼心に行きて帰らぬもののうら悲しさを私はしみじみと知ったように思われる。こうして秋を迎えた私ははかなくお鶴と別れなければならなかった。

ある日私は崖下の子供たちの声に誘われて母の誡めを破って柳屋の店先の縁台に母よりも懐かしかったお鶴の膝に抱かれた。

「なぜこのごろはちっとも来なかったの。私が嫌になったんだよ憎らしいねえ」

と柔かい頬を寄せ、

「私もう坊ちゃんに嫌われてつまらないから芸者の子になってしまうんだ」

と言ったお鶴の言葉はどんなに私を驚かしたろう。遠い下町の、華やかな淫らな街に売られて行くのを出世のように思って面白そうに嬉しそうにお鶴の話すのを私はどんなに悲しく聞いたろう。しかしそれも今は忘れようとしても忘れることの出来ない懐かしい思い出となってしまった。

お鶴はすでに、明日にも、買われて行くべき家に連れて行かれる身であった。そこは鉄道馬車に乗って三時間もかかって行く隅田川の辺りで一町内すっかり芸者屋で、芸者の子になるとおいしい物が食べられて、奇麗な着物は着たいほうだい、踊りを踊ったり、三味線を弾いたりして毎日賑やかに遊んでいられる