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さんじょうこ

山上湖

豊島 与志雄

「新潮」1949(昭和24)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,912 字 · 22 页

青空文庫

」

「あとで、ゆっくり相談しよう。」

なにをまだ相談することがあるのかしら。約束した筈ではなかったか。私がじっと見つめていると、彼は言い直した。

「もっとよく、考えてみよう。」

「生きること? 死ぬこと?」

「どちらだって、同じだよ。分ってるじゃないか。さあ……。」

差し出された手には縋らないで、私は崖縁から身を退いた。

そして立ち上った。

「ばかね、あなたは。わたしがここから飛びこむとでも思ったの。」

「思やしないよ。」

「思ったでしょう。」

「そんなこと思わないから、危いと言ったんだよ。」

「では、あやまって落っこったら。」

「ほんとに危い。」

「ほんとに危い。……」と私は繰り返してみた。

「もう行こう。」

なんという愚かな会話だったろう。私はもう彼をからかうのはやめようと思った。彼はへんに憂欝になったらしい。首垂れて、黙って、坂道を下っていった。

バスの停留所では、二時間ばかり待たねばならないことが分った。面白いこともないし、湖岸の道をぶらぶら歩くことにした。

雲が次第に多くなり、そして雲行きはけわしくなった。旅館まで半分ほど来たかと思われる頃、雨が降りだした。木陰によけた。