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やまぶきのはな

山吹の花

豊島 与志雄

「群像」1953(昭和28)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,727 字 · 22 页

青空文庫

あなたも考えておいて下さい。一週間ばかり、お目にかからないことに致しましょう。」

久子のその申し出を田宮は素直に受け容れて、この山奥の丸沼温泉に来た。

考えることは何もなかった。考えないために、すべてを頭の外に放り出しておきたかった。そしてただ感じたのは、久子のない生活というものが無意味空虚であるということだった。過去にずいぶんでたらめな生活をしてきた田宮にとっては、この愛情の発見がいささか意外でさえあった。

彼はその時を、何の時かもよく分らぬその時を、ただ待っていたい気持ちだった。そして、ただ待つということは、死を思うことと、紙一重で相通ずるものだと知った。ほんの一歩の差で、彼は自決しかねなかった。

それにしても、中心からそれたつまらないことが、なんと鮮明に浮んできたことか、仔猫だとか、綾子と山吹だとか、老婢たちだとか、なおその他のいろんなものまで、湖面の鏡に映った。そして今、その湖面には、一枚の木の葉が、くるりくるりとゆるく回転しながら、湖心の方へ流されていた。方向の定まらぬ風の吹き廻し、そして気紛れな渦巻き。あの木の葉は危かった。いつ沈むか分らなかった。