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やまぶきちょうのさつじん

山吹町の殺人

平林 初之輔

「新青年」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,530 字 · 37 页

青空文庫

と上野は二人の刑事に向って言った。

そのうちに汽車が到着した。駅の構内は急にざわざわした。二人の刑事と上野とは改札口の近くに並んで立っていた。百合子は上野のうしろに身をかくして、二人の男の肩の間から眼だけ出して、改札口から出て来る人々を熱心に見張っていた。

「あれですよ。あの赧(あか)ら顔の肥った男です」と言いながら、彼女は上野の背を指でつついた。

四人の眼は同時に百合子が今説明した人物にそそがれた。

彼は、赤帽からトランクを受けとるや否や、急いで車をやとった。『山吹町』という声を四人ははっきりときいた。

「君たちはこれからタキシイであの男をつけて行きたまえ。そして向うでよく様子を見た上で、突然逮捕するんだ。早すぎてもおそすぎてもいけないよ。十分位様子を見ていたまえ、僕が署長には伝えておくからその点は心配ないよ。だが抵抗するかも知れんから、用心して四人位でかかるがいいよ。百合子さんはどうも御苦労でした。さあこれから私たちは本部へ帰りましょう」

飯田町駅から二台のタキシーが飛んだ。一台は山吹町へ、一台は×××署の方向へ。上野はタキシーの中で、非常に敏捷に旅行案内のページをめくって、しきりに手帳に数字を写し取っていた。