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あずさがわのじょうりゅう

山岳紀行文集 日本アルプス

小島 烏水

小島烏水『山岳紀行文集 日本アルプス』。同一底本的分册已合并为一书。收入:梓川の上流、上高地風景保護論、高山の雪、日本山岳景の特色、雪中富士登山記、雪の白峰、白峰山脈縦断記、谷より峰へ峰より谷へ、不尽の高根。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,795 字 · 274 页

青空文庫

翌くる日は穂高岳に上るつもりで、朝夙く起きた、宿の女が「飯が出来やしたから、囲炉裏の傍でやって下せえ、いけましねえか」と、畏る畏る閾越しに伺いに来る、いいとも、と返辞して大囲炉裏の前に、蝋燭を立て、猟士や宿の人たちと、車座になって飯を済ます、準備も整って出かけると、雨になった。

宿の前には、梓川の寒流が走っている、この川は、北から出て、西へと迂回し、槍ヶ岳、穂高山、焼岳などの下を蜿ねり、四山環峙の中を南の方、島々に出て、また北に向いて走るので、アルプス山圏を半周することになる、川を隔てた八右衛門岳は、霧雨の中から輪廓だけをあらわす、淡い水に濃い水で虚線を描いたようだ、頑童が薄墨で無遠慮に線を引くと、こんなのが出来る、しばらくして、虚線が消えると、兀岩削るが如き石の峰が峻立する、柔い線で出せば出せるものかなとおもう。

川に沿いて行く、この国特有の信濃撫子(実は甲州にもある)が、真紅に咲いている、河原に咲くことが多いので、河原撫子と、土地の人はいうようだ、森と川の間に、一筋道が通じている、本流に「へ」の字をやや平にしたような橋が架っている、取りつきに杭を組んである