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あずさがわのじょうりゅう

山岳紀行文集 日本アルプス

小島 烏水

小島烏水『山岳紀行文集 日本アルプス』。同一底本的分册已合并为一书。收入:梓川の上流、上高地風景保護論、高山の雪、日本山岳景の特色、雪中富士登山記、雪の白峰、白峰山脈縦断記、谷より峰へ峰より谷へ、不尽の高根。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,795 字 · 274 页

青空文庫

旅館梅月へ着く。割烹を兼ねた宿屋で、三層の高楼は、林泉の上に聳え、御手洗川の源、湧玉池に枕しているから、下の座敷からは、一投足の労で、口をそそぎ手が洗える。どこかの家から、絃歌の声が水面を渡って、宇治川のお茶屋にでも、遊んでいるような気がする。恐らく富士山麓の宿屋としては、北の精進ホテル以外において、もっとも景勝の地を占めたものであろう。池は浅間大社のうしろの熔岩塊、神立山の麓から噴き出る水がたたえたもので、社の神橋の下をすみ切って流れる水は、夜目にも冷徹して、水底の細石までが、うろこが生えて、魚に化けそうだ。金魚藻、梅鉢藻だのという水草が、女の髪の毛のようになびいている中を、子供たちが泳いでいる。明朝の登山準備を頼んで、宿の浴衣を引っかけたまま、細長い町を散歩する。女学生の登山隊が、百人ほど、町の宿屋にいるのだそうで、チンチクリンの男の浴衣を、間に合せに着て、歩いているのもある。宿屋の店頭には、かがり火をたき、白木の金剛杖をたばに組んで、縄でくくり、往来に突きだしてある。やはり「山」で生活している町の気分がする。

それよりも、大宮町になくてかなわぬものは浅間神社である。