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やまもとゆうぞうしのきょうち
山本有三氏の境地
宮本 百合子
「文芸」1937(昭和12)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,155 字 · 32 页
人間の社会、この人生は、確に「真理を愛し、真実な生活を営む」人間の日常生活がとりも直さずその「社会の中枢に立って立派に働く」ことと一致したものでなければならない筈である。けれども、今日の社会の現実は、そのような人間的調和をもった社会生活の中で、各人が持って生れたものを素直に誤らずのばしてゆく可能を九分九厘まで奪っている実際である。社会の中枢で立派に働くことと、真理を愛し、真実な生活を営むこととの間に日夜の相剋が在るからこそ現代の真面目な青年たちは苦しんでいるのであると思う。そういう青年たちの親の深い愁と心痛とがあるのである。そして、山本有三氏の小説に心をひかれる読者層の大部分こそは、実にこういう苦痛をもった人々ではなかろうか。この社会的矛盾の間に、人間らしく生きようとするには、何をなさなければならないか。いかに生きるべきか。山本有三氏が十数年来、芸術の裡を一貫させて来たこのテーマは、現在新しい拡りで多くの人々の生活のテーマとなっていると思う。
元来、この作者は「己の子」というものに対する親の側からの態度について特色的な根づよさで探求をくりかえしている。