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やまもとゆうぞうしのきょうち
山本有三氏の境地
宮本 百合子
「文芸」1937(昭和12)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,155 字 · 32 页
山本有三氏の作品を読むと、人々は作者の正義感を快く共感し、そのことで自分の人間らしい、誠意の感情を楽しみ、日常的な努力感を刺戟され、同時に、益々今日のそれぞれの日暮しの姿を肯定する気持を励まされる。ところで、今日の私たちの日暮しなるものの土台はまことに矛盾撞着甚しいものがあるのであるから、作者山本氏の与える種類の正義感の満足には一面に、その当然の性質として大きく現代の常套と妥協せざるを得ないところがある訳である。否、或は、他の多くの作者が何の抵抗をも示さず頭から現実の事大勢力に屈服しているに対して、人及び芸術家としての山本有三氏は一応矛盾をも指摘し、それに抗議せざるを得ない人間の真情をもとりあげ、而して後、一般の温順な市民がそうである通り根本的な妥協への道を開いて見せている。その自覚された妥協こそ、山本氏の読者が一層山本氏の不安のおそれない正義感をわが身に近いものとして感じ得ているところなのではるまいか。私は、この微妙な綾をもって山本氏の芸術の中に織り出されている社会的正義感の姿に、深い興味を動かされるのである。
五六年前改造社から一冊の大型で山本有三全集が出版された。