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ひゃくものがたり
山椒大夫・高瀬舟
森鴎外『山椒大夫・高瀬舟』。同一底本的分册已合并为一书。收入:百物語、カズイスチカ、杯、護持院原の敵討。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,466 字 · 92 页
一人の娘が又こう云った。
「馬鹿に小さいのね」
今一人が云った。
「そうね。こんな物じゃあ飲まれはしないわ」
今一人が云った。
「あたいのを借そうかしら」
愍の声である。
そして自然の銘のある、耀く銀の、大きな杯を、第八の娘の前に出した。
第八の娘の、今まで結んでいた唇が、この時始て開かれた。
“MON. VERRE. N'EST. PAS. GRAND. MAIS. JE. BOIS. DANS. MON. VERRE”
沈んだ、しかも鋭い声であった。
「わたくしの杯は大きくはございません。それでもわたくしはわたくしの杯で戴きます」と云ったのである。
七人の娘は可哀らしい、黒い瞳で顔を見合った。
言語が通ぜないのである。
第八の娘の両臂は自然の重みで垂れている。
言語は通ぜないでも好い。
第八の娘の態度は第八の娘の意志を表白して、誤解すべき余地を留めない。
一人の娘は銀の杯を引っ込めた。
自然の銘のある、耀く銀の、大きな杯を引っ込めた。
今一人の娘は黒い杯を返した。
火の坑から湧き出た熔巌の冷めたような色をした、黒ずんだ、小さい杯を返した。
第八の娘は徐かに数滴の泉を汲んで、ほのかに赤い唇を潤した。