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やまつばき

山椿

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1948(昭和23)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,911 字 · 32 页

青空文庫

主馬は激怒のために震えた、「七十日ちかくも人を惑わし悩めたうえ、そんな勝手なことをする権利はおまえにはない筈だ」

「わたくし御家名を汚しますでしょうか」

「結婚して間もない妻が自殺をする、理由もなにもわからない、これが梶井の家や私の面目に無関係だと思えるのか」

ああときぬは呻き声をあげた。慥かに彼女はその点を忘れていた、こうせざるを得なかった原因が余りに大きく重すぎるため、結果のよび起こす影響までは思い及ばなかったのである。きぬは初めて両手で面を掩い、絶入るように泣きだした。

「わたくしどう致しましょう――」

「訳を話すがいい、どうしても死ぬ必要のあるものなら止めはしない、理由に依っては死後に名の立たぬくふうもある、話してごらん」

きぬはながいこと泣いていた、形容しようもなくいたましい、哀れな泣き方だった。それからやがて嗚咽に声をとぎらせながら、非常な努力で口を切った。

「わたくし想う方がございました、――もう二年まえのことでございますけれど、……」

思いがけない告白だった。然し主馬にはそういう予感があったように思う、彼は努めてなにげなく後を促した。きぬは続けた。