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やまつばき
山椿
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,911 字 · 32 页
夕餉の膳に坐ってからも、かなり酒がすすんでからも、従妹はとりとめない話をするだけで、肝心のことはまったく念頭にないようすだった、主馬は仕方なしに、「丸屋から届けて来なかったか」と訊いた。
「ええ届けてまいりました、お居間に置いてございますわ」
「持って来てごらん」
みちは立っていったが、すぐ帖紙に包んだ物を両手に抱えて戻った。届いたままあけてみもしなかったのだ、いかにもみちらしい、主馬はふと眼頭が熱くなるのを感じながら、「あけてごらん」と云った。
「なんでしょう、お衣裳ですわね」
帖紙をひらくと花の咲いたように美しい模様が出て来た。まあきれい、みちは子供のような声をあげて眼を瞠った。
「ちょっとそれを肩へ掛けてみないか」
「わたくしがですか」
みちは華やいだようすで、いそいそと立ち、その衣裳を肩へ掛けた。古代紫のぼかしに、眼もあやな百花の友禅模様が染出してある。みちは続けざまに、「まあ、まあ」と云いながら、身を捻ったり、裾をひろげたり、酔ったような顔でいつまでも見惚れていた。
「なんてきれいなんでしょう、初めてですわ、こんな美しい模様を拝見するのは、……ごらんなさいましな、この牡丹の花、まるで生きている花のようですわ、あら、これ撫子ですわね」