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さざんか

山茶花

佐左木 俊郎

「文章倶楽部」1927(昭和2)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,001 字 · 10 页

青空文庫

」

それを聞くと長作は寂しかった。父親の気持ちを汲むと、彼はむしろ、胸を噛まれる思いがした。

「爺つあんが大切にして育てだ山茶花だもの。今まで、どこから売れって言われでも、売んねえでだ山茶花だもの……」

「いいがら長作、取り換えでもらえ。俺は、本当になんにもいらねえ。こんなに大切にされで、俺、なんにもいらねえ。俺、金でも溜めでいで、その機械買ってやれんのだらえいげっとも……山茶花など! それより、汝等、なんでも楽出来れば。――俺、こんなに大切にされで……」

涙もろくなった平三爺の眼からは、また涙が流れた。長作は、もう何も言わなかった。が、眼頭が熱く潤んで来るのを覚えた。

彼等は、平三爺にしろ長作にしろ、もちろん、この山茶花を手放したくはなかった。併し、だからと言ってこれを拒絶して、手扱きを使い続ける気にもなれなかった。

「俺は、もう、これきりの人間だ。山茶花など! それより、汝等せえ、幸福で……」

平三爺は、もう一度こう言って、涙に濡れた顔を、とくと枕に押しあてた。

――昭和二年(一九二七年)『文章倶楽部』七月号――