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さんけいにいくるひとびと

山谿に生くる人々

葉山 嘉樹

――生きる為に――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,699 字 · 67 页

青空文庫

その上苦しい生活だ。健康さえ許せば、六十年も八十年も生きなければならぬ生涯だ。その長い峻しい生涯を、この子も、「幸福」を探して歩くんだろう。蛍と蝮の眼玉を間違えて、噛みつかれるように、幸の代りに不幸を掴むだろう。自由を求めては、ひどい拘束を食うだろう。俺が思い出して、俺の生活の中から「幸福」を摘み出そうとすれば、恋も結婚も何もかも消えてしまう。仄かに残るものは、「おやじもおふくろも、俺を叱らなかった。寝ている間に枕元に果物を置いててくれた。俺は枕頭に果物のある夢を見て、手を延して、ほんものの果物を掴んだ。そして、それにかぶりついて眼が覚めたら、おやじとおふくろが、枕頭に坐ってて、俺を見て微笑したっけなあ。三つ位、いや四つ位の時だった」そんなのが俺の幸福だったと言えば言えるだろう。俺も、子供に、子供が子供である間だけ位、自由にさせといてやろう。俺が死んだり、子供が一人立ちになれば、もう、自由も幸福も、そんなものはありはしない。生活があるだけだ。思い通りにならない、いやな時でも顔は笑っていなければならない、歪んだ、卑屈な生活が、あの子をまた捕えるんだ。