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さんけいにいくるひとびと

山谿に生くる人々

葉山 嘉樹

――生きる為に――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,699 字 · 67 页

青空文庫

お互いに近くに住んでいて、眼に角立て合うってのは、面白くありませんから、一つ、お願い申します」

「はあ」と、一人が答えた。「なあ、みんな、そんなことにしてもらおうか」

「よからず」

という事で、納まった事があった。

板一枚隣りでは、まだ頭のてっぺんから搾るような笑い声がしたり、押し殺すような、擽るような笑い声が聞えて来た。

――どうすればいいんだ。何を目当てにして生きて行くんだ。何だ! 理想は、いくらでも高く、遠くに置くことができる。そして現実は、過去の習慣と、伝統と、それから本能とだけの重圧で、息もつけないほど、むんむんしている。ちょうど、あの濁った天龍川の水が、そのまま空気になりでもしたように、息苦しいじゃないか。農民も、土方も、メスの刃のような断崖の上に立っていて、上の方の空高く、理想というようなものを眺めようとすれば、眼は眩んで、断崖から落っこちてしまう、とでもいうように、その立った足許と、その足許の周囲の危険さに、心を奪われて、立ち疎んでいる。そして理想とは? それについて一生涯考えようとも、俺の借金が一銭たりとも減りはしないところのものだ。