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やまみち

山道

中里 介山

「改造」1926(大正15)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,368 字 · 15 页

青空文庫

「どうですこのなだらかなカヤトのスロープと、あのクラシックな立木の模様、さながら古土佐の絵巻物をひろげたようなのんびりした趣をこの峠の上で見出そうとは思いかけませんでしたよ」

「この大菩薩の嶺からあの天狗棚山までの間の西側のスロープは、その温雅な美しいながめに於て大菩薩に来るほどの人を心酔せしめる処のものであります、この辺を俗に姫の井というのは、どういういわれか知りませんが御覧なさい富士桜が咲いています、ここにこんな美しい清水が滾々と湧いておりますよ」

かくてこの一行は真黒な熊沢山の下、左に高く大菩薩嶺を仰ぐ処、峠の頂きに来ました。

そこには大菩薩峠、海抜七千尺と記したペンキ塗の小さな木標と、くずれかけた石の地蔵が並んでいる。

「塩山では峠の上は雪だといっていたがほとんど雪はありませんね」

「数日前までは此処が一尺ほどの積雪でありました」

「さあ休んで一ぱいやりましょう」

その都度、その都度、一ぱいやりたがる男が一人いる。

そこで一行が、その行厨を開くべき地点を選択していると以前の学生は、やはり少しく群を離れて大菩薩嶺の方面へ進んで行き、

「皆さん、もう少し此処を上ろうではありませんか、惜しい事です、春だもんですから南アルプスの展望が充分に利かないで残念です」