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やまみち

山道

中里 介山

「改造」1926(大正15)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,368 字 · 15 页

青空文庫

ものでしょう」

「だからいわない事じゃありません……」

Cという胆汁質の脊広服が昂然として乗り出して来ました。

「あの時に相当の空地と樹木と消防の尽力を有していたのがひとり浅草の観音堂だけとは限りますまい――僕は一つその比較を本郷の帝国大学の図書館に取って見たいと思います、諸君、浅草の観音堂はたしかに寛永時代の創建と聞きました、無論、東京の市中では古建築の部に属する代表的の一つでしょう、本郷の帝大の大学図書館は、よくは知らないが、これは最近の建築に成り殊にその建築が学術上、技術上の当代の精粋を尽したものと見て差つかえないと思います、それが脆くも焼け尽して木造の古建築観音堂が瓦一枚も損せずに残りました。なお比較して御覧になると四方の空地は浅草の観音より帝大の構内が広くとも狭かろうはずはありません、樹木も多かろうと少ないとは覚えません、殊に土地はズット下町を離れているから消防の余裕も多かったはずです――もし空地と樹木と消防の力が保存最大の条件としたならば観音堂が先に燃えつくして帝大の図書館が残らなければならないはずではありませんか」

「アハハハハハ」

その時一行の中から遽かに哄笑が湧き上りました。