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いわたふじんのしをいたむ

岩田夫人の死を悼む

岸田 国士

「婦人倶楽部 第三十一巻第六号」1950(昭和25)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,409 字 · 5 页

青空文庫

弱点を巧みに利用されたら、おそらく、極めて御し易い男性となるであろう、というような、警告とも気易めともつかぬ一言であつた。

新郎の傍らで、それを聴いていた静子夫人のつゝましい微笑は、私が、その後、岩田家を訪ねる毎に夫人の表情をおゝつているやさしい微笑であつた。

その名の如く、まことに静かな、しかし、どこか毅然としたものを奥深く蔵している女性のように思われた。

岩田君とは仕事の関係で屡※(二の字点、1-2-22)会うのに、私は人を訪ねるのが億劫なたちで、めつたに夫人にはお目にかゝらないのだが、私の印象は多分間違つてはいないと思う。

愛するものを喪うかなしみは誰でもおなじだ、とはいうものの、岩田君の場合、私は、なにか、ほんとうに片腕をなくしたというような空虚感が強いのではないかと想像し、芸術家の日常生活に必要な、力強い一つの精神の支えが、もし夫人の存在そのものであつたとすれば、私は、岩田君を慰める言葉をまつたく知らないのである。

この一月であつたと思う。私は、久しぶりで娘たちを連れて、神田へ夕食をしに出かけた。岩田君一家を誘うつもりでいたところ、あいにく、当の岩田君が胃を患つていて、その計画はフイになつた。