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みんざんのいんし

岷山の隠士

国枝 史郎

「大衆文芸」1926(大正15)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,095 字 · 19 页

青空文庫

県令は李白へこう云った。

十歳の李白は声に応じて云った。

「焔ハ紅日ニ隨ツテ遠ク、煙ハ暮雲ヲ逐ツテ飛ブ」

県令は苦々しい顔をした。それは自分よりも旨いからであった。

五歳にして六甲を誦し、八歳にして詩書に通じ、百家を観たという寧馨児であった。田舎役人の県知事などが、李白に敵うべき道理がなかった。

ある日美人の溺死人があった。

で、県令は苦吟した。

「二八誰ガ家ノ女、飄トシテ来リ岸蘆ニ倚ル、鳥ハ眉上ノ翆ヲ窺ヒ、魚ハ口傍ノ朱ヲ弄ス」

すると李白が後を継いだ。

「緑髪ハ波ニ隨ツテ散リ、紅顔ハ浪ヲ逐ツテ無シ、何ニ因ツテ伍相ニ逢フ、応ニ是秋胡ヲ想フベシ」

また県令は厭な顔をした。

で李白は危険を感じ、事を設けて仕を辞した。

詩的小人というものは、俗物よりも嫉妬深いもので、それが嵩ずると偉いことをする。

李白の逃げたのは利口であった。

剣を好み諸侯を干して奇書を読み賦を作る。――十五歳迄の彼の生活は、まずザッとこんなものであった。

年二十性儻、縦横の術を喜び任侠を事とす。――これがその時代の彼であった。

財を軽んじ施を重んじ、産業を事とせず豪嘯す。――こんなようにも記されてある。