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しまもり
島守
中 勘助
「犬 附島守」岩波書店、1924(大正13)年5月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,146 字 · 37 页
湖の島の朝凪はたとしえなく静かである。森はしんしんとしずまりかえっておりおり杉の枯葉がこそりと落ちるばかり、幾億の木の葉のひとひらもそよぎはしない。
南の浜へおりて顔を洗い、米をとぐ。白根の山なみに淡黄の雲がみえてきょうは晴かと思わせる。鍋をさげて坂をのぼる。家のうしろでなに鳥かきゅうきゅうと鳴く。火をおこしたところへ本陣が玉子をもってきてくれた。鍔のひろい笊の底にまろびあういろいろな鶏の卵は私のために乏しい村の隅ずみから寄せ集めたものである。飯がふくじぶんまで話して本陣は帰った。
食後。島の脊をあるく。茱萸の枝が落ちていた。けさ遊びにきた村の子がすてたのであろう。大きな鳥の羽根をひろう。鳥の落してゆく羽根は天からふった宝ものみたいに子供心に嬉しかった。柔い羽根をひろうと家ではそれを羽箒にしてひき茶をはきよせるのを私は自分が拾ったのだといって御褒美に数をきめて臼を廻させてもらう。私はわざと臼を躍らせてぱっと茶の粉をたたせるのがすきだった。すがすがしい薫りがする。しめやかな茶臼の音は今も耳にのこって遠いとおい昔を偲ばせる。これはかすかに紺色の光沢をおびて絽のように透いてみえる幅のひろい羽根だ。