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しまもり
島守
中 勘助
「犬 附島守」岩波書店、1924(大正13)年5月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,146 字 · 37 页
という。で、一時ばかりそこらを歩いてもどったらようよう色がさめたがまだ鼻をつまらせている。白根颪が無二無三にふく。本陣は一所懸命艪を押しながら この風で鱒がとれるからいいのがあったらもってゆこう という。幾年もまえに山からくる清水の落ち口に彼らの最初の鰭をふった鱒の子はその父となり母となるときがくると稚いころ乳房を含むことを知らぬその口にはじめて吸った清水の味を思いだしてわが子にもそれを吸わそうとおなじ葦べに寄ってくるのをさし網を沈めてとるのである。四方の山から岡から無数の烏が島をめがけて帰ってくる。これから山の鳥は雪に追われてみなこの島に集るので島はいちめん鳥の糞になるが、春になって雪のとけたあとをみると木の実草の実の種子が敷きつめたようになってるという。
夜になるとお宮のわきの坊主の木へ怪鴟が二羽もきてぐわっぐわっと喉を鳴らしながら闇のなかを漁りまわる。
十三日
午後。雨のなかを浜へおり水をくんで枝豆をゆでる。木つつきは始終島を見まわって人の影さえみれば咎めでもするように鳴きたてる。この美しい深山の彫師は日にち小さな鑿をふるってまえの夜の夢を木の幹に刻もうとするかにみえる。