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くずれるおにかげ
崩れる鬼影
海野 十三
「科学の日本」博文館、1933(昭和8)年7月~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,100 字 · 69 页
私はそのお医者さまの手をとらんばかりにして、兄の倒れている二階の室へ案内しました。
兄は依然として、長々と寝ていました。医者は一寸暗い顔をしましたが、兄の胸を開いて、聴診器をあてました。それから瞼をひっくりかえしたり、懐中電灯で瞳孔を照らしていましたが、
「やあ、これは心配ありません。いま注射をうちますが、直ぐ気がつかれるでしょう」
小さい函を開いて、アンプルを取ってくびれたところを切ると、医者は注射器の針を入れて器用に薬液を移しました。そして兄の背中へズブリと針をさしとおしました。やがて注射器の硝子筒の薬液は徐々に減ってゆきました。その代りに、兄の顔色が次第に赤味を帯びてきました。ああ、やっぱり、お医者さまの力です。
三本ばかりの注射がすむと、兄は大きい呼吸を始めました。そして鼻や口のあたりをムズムズさせていましたが、大きい嚔を一つするとパッと眼を開きました。
「こン畜生」
兄は其の場に跳ね起きようとしました。
「やあ気がつきましたネ。もう大丈夫。まァまァお静かに寝ていらっしゃい」
医者は兄の身体を静かに抑えました。
「おお、兄さん――」
私は兄のところへ飛びついて、手をとりました。