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くずれるおにかげ

崩れる鬼影

海野 十三

「科学の日本」博文館、1933(昭和8)年7月~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,100 字 · 69 页

青空文庫

それから、どのくらい経ったのか、私には時間の推移がサッパリ解りませんでした。フッと気がついたときには、あの凄惨な小田原の隧道の上かと思いの外、身はフワリと軟いベッドの上に、長々と横になっているのでありました。

「ああーッ」

私は思わず、声を放ちました。(ああ、気がついたようだ)(もう大丈夫)などという囁きがボソボソと聞えます。ハッと気がついて周囲をキョロキョロと見廻すと、これはどうしたというのでしょう。傍らに立って、こちらへ優しく笑額を向けているのは、あの悲歎の主、谷村博士の老夫人だったのです。いや駭きと意外とは、そればかりではありません。いまのいままで、惨死したとばかり思っていた兄の荘六までが、警官や手術衣の人達の肩越しに、私の方を向いてニコニコ笑っているではありませんか。ああ私は何か夢を見ていたのでしょうか。

「に、にいさん――」

「おお、気がついたナ、民ちゃん」

兄は私の手を握ると、顔を寄せました。

「どうしたんです。兄さん。――博士夫人も笑っていらっしゃるじゃありませんか」

「はッはッ。では夫人に訳を伺ってごらん」

「イエあたくしからお話申しましょうネ。