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あらし
嵐
島崎 藤村
島崎藤村『嵐』。同一底本的分册已合并为一书。收入:嵐、分配。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,007 字 · 108 页
大量生産の機運に促されて、廉価な叢書の出版計画がそこにも競うように起こって来たかと思いながら、日本橋手前のある地方銀行の支店へと急いだ。郷里の山地のほうにいる太郎あてに送金するには、その支店から為替を組んでもらうのが、いちばん簡単でもあり、便利でもあったからで。日本橋の通りにあるバラック風な建物の中でも、また私たちはしばらく時を送った。その建物の前にある石の階段をおりたところで、私は連れの次郎や末子を見て言った。
「さあ、太郎さんへはお金を送った。これからは次郎ちゃんや三ちゃんの番だ。」
自動車が動くたびに私の子供に話したことがほんとうになって行った。「へたな洋食よりいい事がある」と私が誘い出した意味は、その時になって次郎にもわかって来た。私は京橋へんまで車を引き返させて、そこの町にある銀行の支店で、次郎と三郎との二人のために五千円ずつの金を預けた。兄は兄、弟は弟の名前で。
私は次郎に言った。
「これはいつでも引き出せるというわけには行かない。半年に一度しかそういう時期は回って来ない。」
「そこはとうさんに任せるよ。」
私は時計を見た。どこの銀行でも店を閉じるという午後の三時までには、まだ時の余裕があった。