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あらしのよる

嵐の夜

小川 未明

「宗教界」1906(明治39)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,980 字 · 6 页

青空文庫

かねちゃんは、小窓の内から外の方を見て、母さんが帰って来ないかと見ていますと、木の葉が空に吹かれて、舞い上ってはちらちらと降るように落ちるのであります。

そのうちに雨も加わって、木の枝の折れる音やら、海の波の音がごうごうと吼えるように、今にも自分の家が吹き飛ばされそうになりました。かねちゃんは、

「父さん、父さん早く帰って来て頂戴よ――くしんくしん。」……と泣き出しました。すると雨風に打たれて、圃の細道を走って、濡鼠のようになって入って来たのは母親であります。

「かねちゃんかねちゃん今帰って来てよ。」

と、表戸を開けますと颯と風が中に吹き込んで、木の葉が座敷の中まで飛び込みました。

「まあ、ひどい風だことねえ。」といって、泣いているかねちゃんを自分の傍に引き寄せて、妾の身体は濡れていてよ、と温かい唇をかねちゃんの薔薇色の頬辺にあてて、

「お父さんはどうしたでしょう……妾浜まで行って見て来るから従順しうしておいでよ、よ、じきにね、晩方までには帰って来るから。……さあさあ、泣かんで、お留守居していておくれよ。ああ、心配でならないこと。沖はどないに荒れているか……浜へ行ったら消息があるかもしれない。