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かわなみ
川波
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十一号」1956(昭和31)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,022 字 · 18 页
生気のない、くすぼった感じの娘だったが、三池と結婚してから、眼の中にしっとりした情味がつき、人間の面白味が出て、社交馴れた洒脱なマダムになった。
倫子は久慈周平の次女で、豊川とは分家同士だが、世襲と内婚で固めたその階級では、結婚といえば、家柄の釣合いだけが問題になる非小説の世界で、愛情や恋愛が主題になったという例はまだない。久慈の家には、同族の娘は二十四歳で結婚すべしというむずかしい家憲があって、倫子は二十四の春、二十も年がちがう日東商事の三池高孝と結婚させられ、ロンドンの支店長になった三池といっしょに英国に行ったが、この春、亡父の年忌のつとめに帰ったまま、なんということもなく実家でぶらぶらしている。拘束のない自由の身の上なので、したいことをして遊んでいるふうだったが、さすがに育ちのよさで、一人でバアへ出入りするほど下ってはいない。いうまでもなく、ここで豊川と落合う約束だったのだと和田は察した。
豊川はぶすっとした顔で、
「ふしぎなひとがあらわれた」
とか、なんとかいいながら、バーテンにジン・フィーズをいいつけた。とぼけたようにそらしているが、グラスを渡す手つきになんともいえない情感があり、倫子も、