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じゅんさじしょく
巡査辞職
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年11~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页
「馬鹿だよお前は……俺に謝罪っても何もならんじゃないか。ええ。一軒の家の主人となったら……ことにコンナ一軒家の中で、年老った両親や、沢山のお金の運命を受持っている若い人間は、モウすこし戸締りや何かに気を付けんとイカンじゃないか。お蔭でコンナ間違いが出来たじゃないか……ええ?……」
一と縮みになった一知は、一生懸命に気を取直そうとしているらしく、無言のまま何度も何度も襟元をつくろい直した。
「足跡も何も無かったんか。そこいらには……」
「……ハ……ハイ。ありま……せんでした。山の下から……この踏石を踏んで来たもの……かも知れません」
一知は先に立って表に出た。国道から曲り込んで、深良屋敷へ上って来る赤土道に、一尺置ぐらいに敷並べてある四角い花崗岩の平石を、わななく手で指した。草川巡査はうなずいた。腰を屈めて、その敷石の二つ三つを前後左右から透してみた。
「足跡も何も無い……ところでお前達は昨夜ドコに寝とったんか」
「この台所に寝ておりました」
「何も気付かなかったんか……それでも……」
何を思い出したのか一知が、突然に真赤になって自分の影法師を凝視した。その赤い横頬と、青い襟筋が朝日に照されて、女のように媚めかしかった。