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じゅんさじしょく
巡査辞職
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年11~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页
兇器が発見されないために、犯人を検挙する手がかりが全く無い事になった。
近まわりの村々を刑事がまわって、行動の疑わしい者や、変った出来事を一々調べ上げたが、元来、朴実な人間たちと、平和な村政で固まっている村々には、二三羽の鶏の紛失や、一尺か二尺の地境の喧嘩が問題になっている位のことで、前科者らしい者は勿論、素行の疑わしい者すら居なかった。それやこれやで、八月の末になると、もう事件が迷宮に入りかけて来た。
……やはり久しくこの辺を通らなかった兇悪な前科者が、通りがかりに遣付けた仕事だろう……。
といったような噂が一時、村の人々の間で有力になった。それにつれて滑稽にも村中の戸締りが俄に厳重になったものであったが、しかしそれとても別にコレといった拠りどころの無い、空想じみた噂に過ぎなかったらしい。警察方面で、そんな方面に力を入れた形跡も無いうちに、刑事たちがパッタリ寄附かなくなったので、村の人々も安心したように口を噤んでしまった。そうして日に増し事件の印象を忘れ勝ちになって行くのであった。
もっともその間じゅう草川巡査は、毎日毎日電話でコキ使われていた。