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じゅんさじしょく
巡査辞職
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年11~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页
草川巡査も、新しい西洋手拭で汗を拭き拭きイヨイヨ吶弁になって来た。
「……その……今申しました犯人の性格をモット深く見究めたいと思いましたので……つまり犯人は都会の上流や、知識階級に多い変質的な個人主義者に違いないと思ったのです。もちろん最初の中は、そんなような感情や、理智の病的に深い人間が、あんな田舎に居ようとは思いませんでしたので……それに村民の評判がステキにいいものですから、出来る限り慎重に致したいと考えましたので……」
「成る程……」
「……そ……それにあの砥石の位置が、暗闇の中で見えるか、見えないかが確かめて見とう御座いましたので……あの惨劇の晩は一片の雲も無い晴れ渡った暗夜で御座いましたが、その翌る晩から曇り空や雨天が続きまして、それが晴れると今度は月が出て来るような事で、まことに都合が悪う御座いました。それであの晩と同じような雲の無い暗夜が来るのを辛抱強く待っておりますうちに、やっと四五日前の晩に実験が出来ました。つまり台所の入口に立ちますと、あの砥石が井戸端の混凝土と一緒にハッキリと白く暗の中に浮いて見える事がわかりました。もっとも、それはただ小さな白い、四角い平面に見えているだけで、砥石だか何だかわかりませんが、それを砥石と認め得る人間はあの家の者より他に無い筈です」