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じゅんさじしょく

巡査辞職

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页

青空文庫

ところでマユミの両親をこの世から抹殺する手段といったら、二人を殺すよりほかに方法が無い事は、わかり切った事実であった。しかし内気な一知は、そんな大それた事が出来ない彼自身である事を、知り過ぎる位知っていた。

その中に一知はラジオに夢中になり始めた。それは一知が生得の器械イジリが好きであったせいでもあったろうが、そのラジオの器械を製作しているうちに一知は一つの素晴らしい思い付きをした事に気付き始めた。夜遅くまでラジオを鳴らしておきさえすれば、どんなにマユミと仲よくしていても、焼餅を焼かれる心配は無いだろうと心付いた。それは全くタヨリない、愚かしい思い付きに相違なかったが、しかし、まだ若い一知にとっては天来の福音とも考えていい素敵な思い付きに相違なかった。

それ以来一知はいよいよラジオの製作に夢中になった。礦石をやめて真空球にして、一球一球と次第にその感度を高め、その声を大きくする事に、たまらない興味を持つようになった。もちろん、それとても云う迄もなく、若い一知が、マユミを中心として描きつづける幸福な幻想に附随した儚ない興味みたようなものに外ならなかったが、それでも一知は何喰わぬ顔をして明け暮れ器械イジリに熱中して、マユミなんか問題にしないような態度を示していた。