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じゅんさじしょく
巡査辞職
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年11~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页
そうして夜になると一知を、わざと蚊帳の無い台所に寝かし、マユミを中の間の蚊帳の中に寝させて、境目の重たい杉扉にガッチリと鍵をかけたものであった。するとマユミも亦マユミで、何だかわからないまま両親の吩付けを固く守って、一知が時折コッソリと泣いて頼むのも聞かずに、一度も鍵を外してやらなかったので、一知は悩ましさの余りに昼の間じゅう死に物狂いに働いて、日が暮れると同時に前後不覚に眠るより他に自ら慰める方法が無くなった。そうして楽しみといっては唯、昼間のあいだ働いている最中だけ、マユミと一緒にいられる。どうかした場合に麦畑の中で汗ばんだ手を握り合う事が出来る位の事であった。又、勘定高い老夫婦も、そうした事を許しておけば一知が仕事に身を入れるに違いない事を想像して、黙認していたものであったが、後にはそれすらオナリ婆さんの感情に触るらしく、自分自身で指図をするといって、朝早くから日の暮れる迄畑に出て来て、眼を皿のようにして二人の一挙一動を監視し始めたために、一知はとうとう辛抱がし切れなくなった。何度となく逃出そう逃出そうと決心しながらも、マユミへの愛情に引かされて、それも出来ないままに、毎日毎夜煩悶の極、一種の神経衰弱に陥ったのであろう。