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じゅんさじしょく
巡査辞職
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年11~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页
同時に牛九郎爺さんはその巨大な母家をアトカタもなく取片付けて隣村の大工に売払い、数多い雇人をタタキ放し同様にして追出してしまい、有る限りの田畑をソレゾレ有利な条件で小作に附け、納まりの悪い小作人の所有の田畑は容赦なく法律にかけて、自分の名前に書換えて行った。それに又、配偶のオナリという女が亭主に負けない口達者のガッチリ者で、村の女房達が第一の楽しみにしている御大師様や、妙法様の信心ごとの交際なぞには決して出て来ない。のみならず臍繰金を高利に廻して、養蚕や米の収穫後になると透かさずに自分で出かけて、ピシピシと取立てたりするようになったので、深良屋敷の老夫婦に対する村中の気受がイヤでも悪くなって来るばかりであった。
「今に見ておれ。あの夫婦は碌な死にようはせぬから……信心をせぬような犬畜生にはキット天道様の罰が当る」
とか何とか蔭口を云う者が方々に出て来るようになったが、勿論それ位の事に驚くような牛九郎夫婦ではなかった。殊に住んでいる場所が場所だけに、村の人々の気持と全然かけ離れた別人種扱いにされながらも、平気で我利我利亡者に甘んじて、極めてヒッソリと暮しているのであった。