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おぐらいけのはす
巨椋池の蓮
和辻 哲郎
「新潮」1950(昭和25)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,016 字 · 12 页
蓮の花というものがこれほどまでに不思議な美しさを持っていようとは、実際予期していなかったのである。
それはもう二十何年か前のことである。そのころ京都にいた谷川徹三君が、巨椋池の蓮の話をして、見に行かないかとさそってくれた。私はそれほどの期待もかけず、機会があったらと頼んでおいたのであったが、たしか八月の五、六日ごろのことだったと思う、夜の九時ごろに谷川君がひょっこりやって来て、これから蓮の花を見に行こうという。もう二、三日すれば、お盆のために蓮の花をどんどん切って大阪と京都とへ送り出すので、その前の今がちょうど見ごろだというわけであった。それでは落合太郎君もさそおうではないかと言って、そのころ真如堂の北にいた落合君のところを十時ごろに訪ねた。そうして三人で町へ出て、伏見に向かった。
谷川君が案内してくれたのは、伏見の橋のそばの宿屋であった。もう夜も遅いし、明朝は三時に起きるというのでその夜はあまり話もせずに寝た。
寝たと思うとすぐに起こされたような感じで、朝はひどく眠かったが、宿の前から小舟に乗って淀川を漕ぎ出すと、気持ちははっきりしてきた。朝と言ってもまだまっ暗で、淀川がひどく漫々としているように見える。