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おぐらいけのはす
巨椋池の蓮
和辻 哲郎
「新潮」1950(昭和25)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,016 字 · 12 页
右のような時刻には、外気が冷たくなり、蕾の内部の気温との相対的な関係が、昼間と逆になるはずである。何かそういう類の微妙な空気の状態が、蓮の開花と連関しているのかもしれない。その点から考えると、気温の最も低くなる明け方が、最も開花に都合のいい時刻であるかもしれない。しかしそれにしても、あの妙な音は何だろう。それを船頭にただしてみると、船頭は事もなげに、あああれだっか、あれは鷭どす、鷭が目をさましよる、と言った。
そういうことに気をとられているうちに、いつか舟はひろびろとした池の中に出ていた。そうしてあたりの蓮の花がはっきりと見え出した。夜がほのぼのと明け初めたのである。その変化はわりに短い時の間に起こったように思われる。ふっと気がついて見ると、私たちは見渡す限り蓮の花ばかりの世界のただ中にいたのである。
蓮の花は葉よりも上へ出ている。その花が小舟の中にすわっているわれわれの胸のあたり、時には目の高さに見える。舟ばたにすれすれの花から、一尺先、二尺先、あるいは一間先、二間先、一面にあの形の整った、清らかな花が並んでいるのである。舟の周囲、船頭の棹の届く範囲だけでも何百あるかわからない。