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こうせつきょうほうずえ

巷説享保図絵・つづれ烏羽玉

林 不忘

林不忘『巷説享保図絵・つづれ烏羽玉』。同一底本的分册已合并为一书。收入:巷説享保図絵、つづれ烏羽玉。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 365,120 字 · 728 页

青空文庫

お高は、若松屋惣七をよく知っているので、は、はい、といそいで答えて、ほほえみをうかべながら、逃げるように座をたった。

若松屋惣七は、雪駄ばきに杖をついて、金剛寺坂の家を出ていた。その杖は、佐吉が立ち木の枝を切ってきたもので、無骨にまがりくねっているのが、見ようによっては、風流にも見えるのだ。

若松屋惣七は、町人らしい縞の着物にその杖をついて、江戸川を渡って、築土片町のほうから矢来下へ抜けて行った。陽がかんかん当たって、走りづかいの奴などの笑い声のする往来であった。武蔵野を思わせる草のにおいのする微風が、こころよかった。

若松屋惣七の変わったすがたに、行人の眼があつまっていた。彼は半盲目のくせに、がむしゃらに歩いて、足が早いのである。その自然木の杖をふって、怒っているように、なかば駈けて行くのだ。いつもこうなのだ。お先手組の組やしきの前に、古びた冠木門があった。若松屋惣七は、家を間違わずに、そのくぐりを押してはいって行った。

玄関の前へ出ても、案内を乞おうとしなかった。そのまま、家について庭のほうへまわろうとすると、窓の障子があいて、女中らしい中年の女が顔を出した。