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ほ

帆

宮本 百合子

「文芸春秋」1927(昭和2)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,973 字 · 25 页

青空文庫

いや、どうも重ね重ね恐縮千万です」

或るレクラム版の翻訳の金が入ったところで、彼等はそれから江戸川べりの鳥屋へ行った。十四ばかりの愛くるしい娘がいた。尾世川がいくら訊いても笑って本名を教えない。尾世川は勝手に鳥ちゃん、鳥ちゃんとその娘を呼んだ。

三

その女は、程なく千束へ戻った。尾世川もその後訪ねて行った模様であったが、くわしいことを尋ねもしないうちに、尾世川の身辺は大分とり込んだ。

樺太から来た女が一時彼の二階にいた。

技師の細君で、夫の任地の九州へ独り行く。その途中寄ったのであった。

尾世川は、そのひとの為に、謂わば職を失ったのであった。女も、いろいろ空想し、彼の許へ来て見たが結局どうにもならず、おとなしく夫の処へ行くしかない。そういう事情らしかった。

藍子が稽古に行くと、不二子というその女は愛嬌よく、

「さあどうぞ、御ゆっくり」

と云って、自分は階下へ下りて行った。一時間、一時間半、二時間と経つ。すると女が不機嫌な表情で登って来て、

「御免なさい、何だか頭痛がして……」

ずる、ずる、藍子のいるのもかまわず戸棚から布団を引きずり出して延べ、尾世川の背後にふせってしまう。