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ほ
帆
宮本 百合子
「文芸春秋」1927(昭和2)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,973 字 · 25 页
尚子が、
「なかなか浮気ね」
と笑った。はつ子も、赧ら顔の中から目立って大きな三枚の上前歯を見せて笑ったが、
「あなただって三十五六になって御覧なさると、変りますよ。自分の浮気を押えようとしているうちはまだ浮気は小さい。私なんぞは人間は浮気に出来ているものだと思ってますね」
すると、紺サージの洋服をつけ、後で丸めた髪を白セルロイドの大きなお下髪止めでとめた瘠せて小柄な鈴子が、効果を意識した口調で、
「だからさ、そんなことは人によって違うんですよ、私だって三十六になったけれど、そんな気は一遍も起りゃしませんよ」
と、反駁した。
「誰でも小道徳に捕われている間は、そういう自在な境涯へは入れないんですよ」
はつ子は、自分の言葉に自分から熱くなったように、
「私世の中に自分ほど面白いものはないと思いますね。自分のことを話すのだったら、どんなに話したって飽きることはありませんからね」
と云った。
「あの人は告白病にかかってるんです」
はつ子が帰って行った後で、森がそう云った。
「あのひとは、あの告白病で雑誌をつぶしているんですよ。先もあのひとが国へ帰っていた間に清田さんがほかの女の人に手紙をやったって大層な喧嘩になって、それを雑誌へ書いて、うんと断わられてしまったでしょう。