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ていぎんじけんをろんず
帝銀事件を論ず
「中央公論 第六三年第三号」1948(昭和23)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,227 字 · 15 页
なぜなら、二合五勺のその又二十数日の欠配、千八百円ベース、この窮乏にあって、われわれはかくも安穏ではないか。暴動一つ起りはせぬ。ピストル強盗と申しても数えるほどのことであり、この万民窮乏の実相から見て、むしろ驚くほど少い犯罪数だと私は思う。
盗人や殺人強盗というものは、私の青年期の不況時代にも、ずいぶん多かった。不況時代となり、職を失い、窮すれば、平和な時代でも犯罪は絶えない。今は窮乏のドン底時代だから、その数が多く、かつ、戦争という悪夢の中で生育して冷酷さに無感動となったために、いらざる血を見る事件がふえた。そこにハッキリ漂うものは戦争の匂いである。人を憎むべからず、罪を憎むべからず、戦争を呪うべし。それにつけても、この窮乏の実相にもかかわらず、むしろ犯罪は極めて少いということの方を、むしろわれわれは厳しく認める必要がある。少数の兇悪事件に耳目をそばだてるよりも、窮乏にたえて敢えて罪を犯さざる多数の同胞への信頼を持たねばならぬ。
料金投函を民衆の勝手にまかせた公衆電話からは、通話数以上の料金が現われたというではないか。各自の責任にまかせれば、かくのごとく、公明正大な同胞の心を信じなければならぬ。