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じょうしき
常識
豊島 与志雄
「改造」1934(昭和9)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,237 字 · 33 页
」
岡部がおりてきた時、坪井は煙草をすいながら歩いていた。梟を思わせる眼が殊に大きく見開かれていた。
「岡部君……よく分った。」と彼は天井の片隅の方を見ながら云った。「こんなところで逢っちゃいけないという意味はよく分った。こんなところで……。」ひどく皮肉な調子だった。「それで、もう帰ってもらった。君も、用が済んだわけだから、行ったらどうだい。あっちで、君に用があるかもしれない。」
岡部は顔色をかえた。坪井はそれを見つめた。抗弁を許さない眼色だった。
「君は何か……誤解してやしないか。」と岡部は呟いていた。「僕は何もしやしない。ただ……あのひとが来るというもんだから……余計なことだとは思ったが……。一体どうしたんだ……。」
「分ってるよ。君の意味はよく分ってる。僕はいま一人でいたいんだ。帰ってくれ。」
その気合が、殆んど腕力だった。だが彼の身体は硬直していた。岡部に身体ごとぶつかっていって、外に送りだした。
彼は両腕を差上げて、大きく伸びをした。その様子を、帳場の上り口からみよ子が眺めて、とんきょうな眼付をして首をすくめた。彼はそれをつかまえて、いきなり抱き上げた。