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ばくまついしんかいこだん
幕末維新懐古談
高村 光雲
14 猛火の中の私たち
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,717 字 · 8 页
所詮は生命さえも危ないという恐ろしい修羅場になっておりますから「これでは、どうも仕方がない。生命あっての物種だ。何もかも抛り出してしまえ」というので、父の兼松と政吉とは籠長持を投げ出してしまう。果ては人波に押され揉まれしている中に三人は散々バラバラになってしまいました。
万年屋の前に荷物の番を吩咐かって独り取り残された私は、じっと残りの荷物の番をしておりました。子供心にも、師匠や親からいいつかった荷の番の責任を感じている上に、もう一度引っ返して来るから、といって出て行った言葉もあることとて一生懸命に荷物を守っておりました。
すると、見る見る中に、両側の家は焼け落ちて、今にも万年屋の屋根を火先が舐めそうになって来る。と、火消しの一群が火の粉を蹴って駆け来り、その中の一人が、長梯子を万年屋の大屋根の庇に掛けました。そうして、するすると屋根へ上って行きました。
「おい、お前、こんな所に何をまごまごしてるんだ」
一人の火消しは私を見て怒鳴りました。
「私は荷物の番をしてるんだ」
そういいますと、
「何、荷物の番をしてるんだ? 途方もない。ぐつぐつしてると、荷物より先に手前の生命がないぞ、早く逃げろ、早く逃げろ」