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あるたんぼうきしゃのはなし

平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕

平林 初之輔

平林初之輔『平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕』。同一底本的分册已合并为一书。收入:或る探訪記者の話、探偵戯曲 仮面の男、オパール色の手紙、私はかうして死んだ!、祭の夜、秘密、華やかな罪過、動物園の一夜、誰が何故彼を殺したか。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 113,247 字 · 229 页

青空文庫

妾と会っているときは、ぶきっちょで、かたくなで、まるで七つか八つの田舎の子供がデパートへはいった時のように、ちっとも落ちつきがないんですもの。

どうして妾があんな人を愛するようになったのか、妾には今考えてもはっきりわかりません。あの人自身もそれが不思議でたまらなかったと見えて、滅多に妾にものを問うような人じゃないのですけれど、最初妾たちがあった晩にこんなことを言いました。

「どうして貴女は僕のような人間に興味をもつんですか?」愛するという言葉がつかえないもんだから、興味をもつなんて、変てこな言い方をするんです。それがあの人のくせでした。妾はこんな出しぬけな質問には面食らって、つい顔を赤くしてしまったくらいです。一体あの人は、滅多に口をきかないくせに口をきくとなると、こちらが面食らって返事のしようのないようなことばかり言うのが常でした。

だけど妾は今でも信じているんです。そして、妾という人間に何か取り柄があったとすればそれだけが取り柄だったと誇っているのです。というのは、あの人の性格に並々ならぬいい所があることを気づいた人は、世界中で妾一人だったということです。