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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
平林初之輔『平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕』。同一底本的分册已合并为一书。收入:或る探訪記者の話、探偵戯曲 仮面の男、オパール色の手紙、私はかうして死んだ!、祭の夜、秘密、華やかな罪過、動物園の一夜、誰が何故彼を殺したか。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 113,247 字 · 229 页
あの人は通りに面した卓によって煙草をふかしていました。のみさしのレモン・スカッシュのコップが麦藁をさしたまま前においてあります。
「さき程お手紙をいただきまして、急にお目にかかりたくなったものですから」
妾はこう言いながらあの人の前の空いた椅子にかけました。
あの人はだまって妾の顔を見ました。まるで怒っているような、妾をさげすみきっているような顔つきなんです。
「でもお邪魔ですかしら?」
妾もつい躍り上がった心が萎縮しそうになりました。
「十七分待っていましたよ」とあの人は時計も見ずに言いました。「でも貴女はなぜ来たんです? こんなところへ?」
「妾、お目にかかりたくてしょうがなかったもんですから、昨夜お別れするとすぐその瞬間から」
「何かめし上がりますか?」あの人は大急ぎで話をそらしました。それは一組の中学生が、妾たちの様子に注意しはじめたからじゃなくて、妾の返事があの人の期待をあまり完全に満足させたので、もう言うことがなくなって、ただきまりが悪いだけになったからだと、あとであの人は説明してくれました。
ソーダ水を半分ばかりすすった時、妾は麦藁から口をはなして言いました。