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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
平林初之輔『平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕』。同一底本的分册已合并为一书。收入:或る探訪記者の話、探偵戯曲 仮面の男、オパール色の手紙、私はかうして死んだ!、祭の夜、秘密、華やかな罪過、動物園の一夜、誰が何故彼を殺したか。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 113,247 字 · 229 页
男は無言のまま私のそばへ寄ってきて、左の手で私の懐をさがした。私は向こうがするままにさせておいた。
「どうした? どこへかくした?」
「何をです?」
「鞄をさ、白ばくれるな」
「僕は鞄なんか知りませんよ、どこに置き忘れたんです?」
「では何の用があって、こんなところにいるのだ?」
「行くところがないから不意に気がついたのです」
「なぜあの橋の下へはいったのだ?」
「あそこが身をかくすに都合がよかったからですよ」
男はだまって短銃を懐へしまった。眼が暗がりに馴れてくるにつれて、私は、この男は昼間象や猿にビスケットをやっていた男であることを思い出した。そして一種の親しみを感じてきた。だが、この男は、それ以外に、まだどこかで見たことがあるような気がしてならない。よく考えてみれば、昼間見たときから、私はそんな気がしていたらしい。それだから妙に、この人の様子が目についたのであろう。それにしてもこの男こそ何のために、こんなところへ来ているのだろう? それに鞄というのはいったい何のことだろう?
「起きていては見つかるおそれがありますから、笹の中に寝ころんで話しましょう。守衛に見つかったら、面倒ですからね」